わがまま王女と溶岩竜 2

そんな事件があってからしばらく、そう、あれは確か誰もが久しく出現した古龍、ヤマツカミの話題に夢中になっているときだった。
その日はしとしとと時雨が降り続いていた。彼らは集会所の酒場に入ってくると、酒飲みハンターの向かいに座り会釈した。彼はついつい、いつもの癖で彼らに酒瓶を差し出す。

 「よぉ、見ない顔だな。ヤマツカミを単身倒したうちのとこのハンターでも見に来たのかい?」

丁度その時この村のハンターがヤマツカミを討伐し、話題になっていたところだった。
入ってきた4人の眼に暗い、しかし確かな決意を秘めた光がともっていることから、酒飲みハンターはそう判断したのだ。
しかし彼らはしばし無言の後……、

 「あなたが、ガイアさんが世話になったというおやっさんですね」

酒飲みハンターは酒瓶を煽る手を止めて正面の青年を見やる。深いフードのようなものを被っているため、顔をはっきりと見ることは出来なかった。

 「失礼しました。俺らは、ココットから来たハンターです。……ガイアさんには失礼かもしれませんが、後輩みたいなものです」

酒飲みハンターは一同を見まわした。確かに全員中堅ハンターの様だが、まだ初々しさが抜けていないところがある。しかしガイアの後輩と称するだけあって、切り抜けてきた場数も相当あるようだ。

 「俺らはガイアさんみたいに単身で色々行けるベテランじゃないです。だから、今日もいつものメンバーで来ました。……彼が倒れたという依頼は、まだこの村にありますか?」

酒飲みハンターは受付嬢を指差して、

 「彼女に聞くのが一番だろう。ココットに依頼はいかなかったのかい?」

 「いいえ、俺らの村のハンター達では手に負えないと判断されたらしく、ギルド側が取り下げたらしいです。ガイアさんが長いことお世話になり、単身ヤマツカミも倒せるようなハンターさんがいるこの村なら、絶対にあるだろうと思って……!」

彼がそう話す傍ら、メンバーの一人が受付嬢に尋ねている。
酒飲みハンターも耳をそばだてていると……。

 「ごめんなさい、結局誰も受けなかったから取り下げちゃったのよね、うちでも。単にヴォルガノスを狩ってこいっていうのならあるんだけど。……ナイショだけど、やっぱり皆あの人に関わりたくないのよね」

受付嬢は苦笑いをしてごめんなさいね、と謝った。

 「誰かその依頼を受け付けたハンターはいるのか?」

酒飲みハンターが口を出す。

 「うちでは聞いてないわね。やっぱり、あの人が失敗したっていう話だけ」

 「なら王女様とやらに直々に聞けば、依頼してくれるかも知れんぞ」

メンバーは急に口を出してきたこの酒臭いオヤジを訝しげに見ている。

 「あら、珍しくあなたが動いてくれるの?」

対して受付嬢は物珍しそうににっこりと笑って彼をみていた。

 「あぁ、久々に仕事をしてくるよ。老いぼれでもまだまだ出来ることはあるんでね。ガイアの弔い合戦にきてやった奴らに、宿でも用意してやってくれや」

はーい、と受付嬢は応え、酒飲みハンターはどこかへと去って行った。
不審そうな顔をするメンバーを大丈夫、と受付嬢がジェスチャーで伝えていた。









翌日、王宮から第三王女の遣いと名乗るものが現れ、ガイアの後輩チームを王宮へと招いた。
彼らは短い時間ではあったが第三王女に直々の謁見を許された。

第三王女は国王の末っ子にあたり、国王も甘やかしに甘やかして育てたせいか、執事の手に負えないほどお侠を通り越してわがままな性格に育ってしまっていた。
彼女は父親譲りのブロンドの髪をかきあげ、椅子にふんぞり返って一同を見やっている。

 「執事があまりに頼みこんでくるから何事かと思えば、なんだ、ただのハンターたちではないか。一体わらわに何の様があるのじゃ?手短に頼むぞ」

一行がヴォルガノス討伐の件を伝えると、

 「あぁ、あれか?結局誰も行ってくれなかったのじゃ。おかげで兄上に負けてしまった。この国のハンターは名ばかりで、皆腰抜けじゃ!それもこれも、あの馬鹿が死んだ所為じゃ!」

一人がばっと顔を挙げて進言する。

「我々なら出来ます!どうでしょうか、兄上……第二王子にリベンジと言うのは」

第三王女はふむ、と眼を輝かせ、

「それも面白そうじゃな。わらわのメンツを潰してくれるでないぞよ。早速兄上に申し上げてくる!」

と、椅子から降り、駆け出して行った。
その場から彼らは一旦帰され、執事から王宮側のギルドに依頼を頼んでおくということだった。
果たして、翌日に依頼は来ていた。しかし一行はすぐに契約せず、夜を待っている……。



城内の警備は厳重なように見えて隙が多い。
特にモンスターを相手に戦うハンターにとって、城は一種の地形にすぎない。
夜の城に忍び込んだ彼らは持ってきたロープを駆使しながら外壁をするすると登っていく。
やがて、目的の窓に辿りついた。
ここは城内の警備に人員をかけ過ぎているのか、ここまで倉庫前以外兵士を見たことがない。
コンコン、とその窓を叩くものがある。何度かノックしたが手応えがない。これは強硬手段かと彼らが諦めた時だった。

 「なんじゃ、猫の手?」

その窓が開け放たれた。すかさずに彼らは乗りこむ。

 「きゃっ!?」

先頭にいたものが彼女の口に麻酔を含ませた布を宛がう。
しばらくして、その人がぐったりしたのを見届けると彼らは脱兎のごとく城から抜け出して行った。



 「気をつけて行けよ」

ふと城門近くで後ろから声をかけられ、一同は立ちすくむ。

「あ、あんたは……!」

そこには、あの酒飲みハンターがいた。夜に城に忍び込んだ自分たちを咎めることもなく、彼は悠然と構えていた。

 「何で俺達を止めない?あんたにまで迷惑がかかるかも知れないのに」

 「俺はクエを紹介してほしいという奴らに紹介したまでだ。それ以上の、それ以下の何でもない」

暗くて顔はよくわからなかったが、口の端を持ち上げているところを見ると笑っているのだろう。

 「それに、そのお嬢様には教育が必要だな。城の奴らが出来なかったツケだ。気をつけて行って来いよ」

 「……有難う、おやっさん」

一同は頭を下げて先を進んだ。その眼には全員、覚悟の火が灯っていた……。


<< BACK<<    >>  NEXT>>