〜Memories〜 7

 「―――わぁっ!」

ティアがその袋の紐をほどいた瞬間ズボォッと何かが勢いよく飛び出し、びっくりして彼女は腰を抜かしてしまった。誰かプリーストを呼んできてくれ、今すぐに!
 しかし、袋の主は彼女に危害を加えることは一切出来なかった。何故なら、それは……。

 「だ、誰……?あなた」

 ティアは恐る恐る彼に話しかけた。
何と袋の中から出てきたのは、猿轡をかまされた人の頭だった。黒髪の青年で、頭にはゴーグルを被っている。
袋の口は小さく、自力で抜けるのは辛そうだ。ティアは猿轡を外したあと、恐る恐る袋を裂いた。なんと彼は手首と足首も縛られていた。頭だけ勢いよく出たのに袋から出られなかったのはこれが原因だろう。相当息苦しかったみたいで、彼もややぐったりとしている。

 「酷い……一体誰がこんな……」

ティアはナイフで手首と足首の紐を解いてやった。自由の身になった青年は、立ち上がると彼女に一礼をした。ティアはそのときようやっと落ち着いて彼を見れるまでになった。青年、というには幼すぎる顔立ちだが、身長から青年という事にしておこう。
ジョブは騎士―――剣士の上位職だった。
童顔の騎士だが自分よりも遥かに上位職というのもあり、良く見ればちょっとした威厳があった。
しばらく青年にみとれていたティアだったが、ハッと我に返り、

 「これで大丈夫ですよね。では、私はこれで――」

もう彼の方へと振り返ることもせずに、一目散にプロンテラへと駆け出した。
 

 
  

 

  「……いない」

 あれから一日以上かけて探し回ってみたものの、結局あの商人に再び会うことはなかった。

 『私だけの ナ イ ト 』、まさかそういうことだったのか・・・!

リアルマミーでなかったのは良かったものの、大変なものが自分宛に送られてきたことだけは確からしい。別段マミー人形にこだわっていたわけではないが、悪戯にしてもほどがあるではないか。
なんとなくやるせない思いと、振り上げた拳の下ろしようが分からなくてティアは小さくため息をついた。

 そして―――



 「いつまでいるの……?」

その冷たい言葉が自分に向けられたものであると悟り、後ろの影が竦んだ。

  「あなたには帰るところがあるんじゃないの……?」

彼は悲しそうな、困ったような顔をして彼女を見た。
リアルマミーもとい、昨日ティアに送られてきたこの『私だけのナイト』は始終彼女の後ろを追いて回った。本当にキャッチフレーズ通りになってしまっているのである。
しかし彼は彼女に向けて言葉を発することはなかった。これが更に彼女の混乱を加速させた。 一体どういう身分かも分からない人物が自分の元に届けられ、しかも件のその人が 親鳥を見た生まれたての雛鳥の如く彼女について回るのである。最早それは気持ち悪いを通り越しているのではないか。

  「ほっといてよ、あたしのことなんか」

そういって彼女が歩き出すもまた追いてくる始末。

  「来ないで!」

思わず声を荒げた彼女に青年は躊躇するも、その場で悲しそうに俯くだけだった。しかし彼女が歩き出すとまたその後を追いていく……。親に捨てられまいとする子供の様な顔をして。

  「こないでってば!」

こんなとき対ストーカー用スプレーでもあれば良いのだが、生憎彼女は持ち合わせていない。
ティアはついに我慢できなくなって駆け出した。騎士よりは軽装備な分、きっとまくことが出来るだろうと思っていた。
が、あまりにも夢中になって走っていたため、自分の足元にワープポータル、移動用の魔法陣が浮かんでいたことに気づかなかったのだった……。  



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