〜Memories〜 5
「なんだ嬢ちゃん、マミー人形を買いに来たんかい?生憎どこの店でも売り切れ続出中だよ」
そんなもんいらんと叫びたくなるような誤解である。
「いえ、見ているだけです。私そんなにお金もっていませんし……」
このとき商人の目が一瞬違う輝きを放ったことに彼女は気が付かなかった。
「そうか、ひょっとして嬢ちゃんきたばっかりかい。知り合いには会えたのかい?」
「いいえ、それも……まだ……」
エインフェリアは肉体は変われども、神々から与えられた名前が変わることはない。前世の記憶がなくとも、前世での知り合いに会うのはよくあることだ。エインフェリアには相手の名前さえ分かれば使える、テレパシーのような能力も神々から与えられている。大抵前世の知り合いがその手段を使って再び彼らは巡り合う。
が、ティアにはそのようなものは届いていなかった。もっとも、これには訳があったのだが……。
「毎日心細くて大変じゃないかい?」
「んー……そうじゃないって言ったら嘘になりますね」
「ジョブは決めたのかい?プロにきたってことは剣士かアコライトあたりかな?」
「それもまだ……良く……」
俯き加減で小さくなってしまったティアを見て、商人は破顔した。
「すまんすまん、きたばっかりだったんだなごめんよ。そうだ、これを餞別にやるよ」
そういって商人はちょっとした回復アイテムを彼女に渡した。
「あ、ありがとうございます」
「いいっていいって……。そうだな、明日の昼ごろにまたマミー人形を入荷する予定なんだ。良かったら一つどうだ?」
これはちょっとダッシュで逃げたほうが良さそうな提案である。
「え!?そんな、そんなこれ以上……」
「まぁちょっとした餞別さ。こっちもマミー人形のお蔭で大分儲かっているしね。社会還元って奴よ。それにな……嬢ちゃんをみていたら思わず昔を思い出しちまって、俺にも何か……ね」
商人はどこか遠い彼方を見つめて物思いに耽っている。逃げ出すなら今のうちかもしれない。
「あぁ、すまねぇすまねぇ。明日の昼ごろだけど、こんだけ人がいりゃどこに店出せるか分からねぇから昼過ぎ頃にプロ南の岩場……場所分かるか?」
「はい」
「そんじゃあの辺までペコペコ便に頼むわ」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「いや、余計なお世話心さ。届いたら可愛がってやってくれよ。『私だけのナイト』なんだからな」
届いた瞬間に五寸釘とハンマーを持って鳥居をくぐりたくなるのは筆者だけだろうか?
「それと……」
そういって商人はしばらく俯いた。流石に自分で言ってて恥ずかしくなったのだろうか。ティアが不思議そうに首をかしげると彼は慌てて頭を振った。
「いや、なんでもねぇ。……嬢ちゃんは純粋なままでいてくれよな。それじゃあ、またな」
商人はそういうとそそくさと立ち去って行ってしまった。
ティアはこのときからしばらく、この商人の真意を知ることはなかった―――。