〜Memories〜 3
その大きな街の片隅に、ぽつんと少女が立っていた。母親とはぐれた子猫とでも表現するのが正しいだろうか……。
彼女は今まさにそんな感じだった。
彼女の名はティア、ジョブはノービスだ。言っちゃなんだがこの話の主人公である。
この世界で『ジョブ』とは対悪意の為に存在する職業のことを指し、生業としての職業とは区別されている。 ジョブには種類と階級があり、彼女が就いているのは一番下の階級のジョブだ。これから悪意を倒しながら自己の業を磨くことによって、上位のジョブへの転職が可能になるのだ。
神々は人間やエインフェリアに様々なジョブを用意しており、ノービスの一つ格上の職業は剣士、魔術師、弓手、僧侶、盗賊、商人の6つで、一次職と呼ばれるこの職業が一生を左右する
といっても過言ではない。一度その6つのうちどれかに就くと、その次になれる上位ジョブがほぼ決まってしまうからだ。この上位ジョブを二次職といい、全部で12種ある。
現在ジョブの階級は4段階に分かれているが、最近悪意が強さを増してきたため更に上にも新たな上位ジョブを設けることを神々は検討しているという。
話を彼女に戻そう。もう既に彼女は半べそ状態だった。
下界に降り立ったばかりらしい彼女はどうやら人間ではなく、エインフェリアのノービスらしい。ノービスには通常神々の代行人によってなされる教育がある。この世界でエインフェリア達が必要とする知識や、戦闘訓練などがそうだ。彼女もきちんとそれをこなしてきたはずだが……。
通りすがりのプリーストがおろおろしている彼女を拾った。プリーストは一次職であるアコライトの上位職だ。精霊の加護による支援を得意とし、対悪魔に優れた存在である。通称
彼らは”プリさん”という愛称で呼ばれていることが多い。
彼が事情を聞くところによると、どうやらティアは迷子になっていたようだ。ここルーンミッドガッツの首都プロテンテラは相当広く、しかも少し入り組んだところがあるので仕方ないだろう。まぁ早い話彼女は地図が読めないということらしかった。
プリーストからの精霊の加護、いわゆるプリさんの支援を貰って彼女は首都の外へ出た。
首都は悪意の襲撃に備えて城壁によって囲まれているが、現在街の周辺は神々によって敷かれたルーンによって強力な悪意は近づけないようになっている。最初ノービス達はこの周辺に生息する弱い悪意、そろそろモンスターと言った方が良いかも知れない――と戦い、修練を積んでいく。街の周辺に生息するモンスターは人やエインフェリアに対してはっきりした害意を持つものは少なく、むしろ人やエインフェリアが脅威となってるくらいである。そう思うと少し同情しないでもない。しかし弱いとはいえモンスターだ。彼らもまた生まれつき闘う能力を保持している。油断しているとノービスでその生を終わらせることとなる。
―――「いたたっ!」
どうやらモンスターを倒したときに返り討ちにあったらしい。だがエインフェリアが受けた傷は神々の加護により、安静にしていれば短時間で自己回復することができる他、ヒールや各種回復アイテムなどによって治せる。
「よし、オッケー。ゼロピーゲット!」
何やらキラキラと光るものをティアは拾った。
モンスターも倒されると、彼らの召喚主の元へ帰っていく。その際に彼らが残していく遺留品は生活の役に立つものが多く、そういった収集品を獲てエインフェリアは通貨を獲得していく。モンスターの中には旅人からアイテムを奪うものもいて、そういった品がたまに手に入るときもある。それらはエインフェリアにとって貴重品であることが多い。
「……やっとこれだけかぁ」
ティアが道具屋から出てきた。収集品を売り捌いてきた様だが、何だか浮かない顔で呟いている。
「新しい武器欲しいのになぁ」
弱いモンスターが落とす収集品は大抵買い叩かれる。ノービスが資金繰りをするのも結構大変なのだ。