〜Memories〜 21


 「リヒト、お前また成長したなぁ」

 「あっ、マスター、おはよう御座います」

 「リヒたんも大分慣れてきた感じだよねぇ。何か険も取れたよね」

 「そうだな……何となく一次職らしくなってきた」

そう言ってティアはリヒトの頭を軽く撫ぜた。元々身長が高く、更にハイヒール状態のグリーブを履いている彼女から頭を撫ぜられ、リヒトは照れ臭さを隠せない。彼が入団時に持っていた他者に対するとげとげしさなども、メンバーが言うとおりここ最近薄れてきていた。

 「でもそのリヒたんも、もうそろそろでお別れなんよねー」

 「ん!?」

 「転職までもう少しなんだって」

 「何だって! それじゃ今日暇な奴ら全員集めてスパルタしに行くぞ!」

 「場所はどするんす?」

 「監獄で良いんじゃないかな」

 「ちょ、総長無理じゃないすか! オレが……」

からからと笑うティアと対照に途端リヒトはしおしおと尻込みする。が、ティアは喜色を浮かべたまま気にしない顔色だ。

 「なに何とかなるって。今日予定あいてるプリさん達確認してるし、ユーリとカイヤは連れてくし」

 「ちょっ!」

その場でのんびりとしていた騎士が予想外のことに飛び起きる。

 「お前保護係りな」

 「総長タンマ、俺今日デート」

 「何か文句あんの?」

 「何もないです」

騎士はがっくりと肩を落とした。その横でプリーストが苦笑しながら彼を慰めた。

 −全員に告知〜−

ティアがギルドメンバー全員に伝わるテレパシーで呼びかける。勿論リヒトにもその声は聞こえていた。

 −今日リヒトのスパルタ手伝ってくれる奴昼前に集まってくれ。もしかしたら転職もするから皆で祝うぞー!−

 −あーいっす!−

 −総長、今日これからもう少ししたら俺を含む5名は臨時です−

 −あや、まじでか−

 −大体2時間くらいで終わると思うので、すぐ合流します−

 −行き先はどっちだ?−

 −ノーグ火山2Fです−

 −おっけ気を付けていって来いよ−

 −あーい−

 −うちらも今日確か月夜花討伐が入ってますー−

 −まじかー、気をつけて行ってこいよ−

 −討伐終わったら向かいますね−

 −リヒたんもついに二次職かぁ、おめでとう!−

 −ありがとうございます−

 −すぐお祝いにいくから、待っててね!−


ティアはふう、と一息ついた。メンバーの声色からも、お祝いムードが漂っていた。一次職から二次職への転職など、強者揃いのLuCeのメンバーから見れば屁でもないようなイベントに思えるかもしれない。だが全員が自分の事のように喜び、祝ってくれるということを肌で感じ、リヒトは嬉しく思ったのだ。

 「監獄に行くの久々だなぁ。楽しみだ」

ティアもそんな彼の様子に満足して、嬉しそうにリヒトの頭をくしゃくしゃに撫ぜるのであった……。








昼前にスパルタ護衛陣が集結した。クルセイダーのティアを筆頭に、ナイトのカイヤ、ウィザードのユウリ、ハンターのエド、セージのクロス、プリーストのリーニャとベル、そして剣士のリヒトといった構成になった。

 「前衛2、後衛3、支援2にリヒトね……支援大丈夫そう?」

 「前後ろで支援分ければなんとか」

 「ベルたんは70台支援だから、あまり無理しないでな」

 「いえっさ。まぁリーニャ姉さんに任せれば万事おっけうわぁなにするやめろ」

プリースト、リーニャが後輩であるベルを羽外締めする、そんな光景を微笑ましく見つめつつもティアは鬨の声を上げた。

 「よし、そろそろ行くとするか」

 


 「各自監獄入り口前集合で。そこまでは私とリーニャでリヒトを護衛する。異常があったらパーティ会話で伝えてくれー」

 「りょうか〜い」

 「ん……?リヒト、どうした」

出発時からやや蒼ざめて声を発しなくなったリヒトをティアは気にかけていた。
いざ現場についてみると、確かにひやりとした緊張感が漂っている。彼は、ここが人を受け入れない場所であることを足を踏み入れた瞬間から理解したのだ。時折グラストヘイム城に吹き抜けていく風の音が、まるで侵入者に対する警告音のように鳴り響く。その音にもまたおののいているようだった。

 「何いっちょ前に一次職らしくびびってんだ?」

 「そ、総長……」

 「大丈夫だって。この前もGD行ったじゃないか。あそことはちょっと格が違うけど、皆に任せてればおっけだって。大丈夫、お前の手に負えないモンスターからは、お前に指一本触れさせやしないさ」

ぽんぽん、と肩を叩かれてリヒトはやや上目遣いにティアを見上げた。ちょっと安心したのだろうか、頬がやや上気してきている。それを確認すると、彼女はニッと笑った。

 「そうそう、私も精一杯頑張るから。それに、そんな可愛い素振りしてると総長に後ろから襲われちゃうよ?総長は可愛いものには目がないからねっ」

 「失礼なリーニャ! 私は襲うときは正々堂々、正面から襲う」

それもどうかと思われる内容である。
リヒトがぷっと笑った。幾分か場に慣れてきたようだ。

 「うん、とまぁここまでは冗談だったけど、ここは転職してもう少ししたら結構頻繁に通う狩場だぞ。慣れておけよ」

 「それ地図読めない総長にいわれたかない」

リーニャがぼそりと呟く。

 「リーにゃ! と・も・か・く! リヒト、お前もこの狩場で強くなるんだ。いずれはな。そして、その時は今の自分を思い出すんだ。不安や恐怖に慄く人たちを一人でも多く救ってくれ」

いつになくティアの真剣な眼差しにリヒトは吸い込まれるように立っていた。

 −嫌やで総長、何か遺言くさい−

 「クロス!?げ、 お前ら聞いてたのかよ!」

 −聞いてるも何も丸聞こえでっせ〜まじで。パーティ会話やないすか−

 −指一本触れさせやしない、か〜。痺れるぅ−

 −かっこいい遺言でしたよ、総長−

このとき名言ならぬ遺言が囃し立てられたが、皮肉にもこれが本当に遺言らしきものになってしまったのである。

 −くっそう〜、憶えてろよお前らー!−

いつもの様に談笑していた、そのときだった。

 −総長、皆、ちょっと急いでこっち来てください!−

一足先に着いていただろうハンターから連絡が入った。が、声を聞く限りただ事ではない。

 −深淵様が出たのか!?分かった、急いでそちらに向かう。監獄入り口か?−

 −いいえ、……城入り口です−


                     
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