〜Memories〜 16
クルセイダーを先頭に、十人余りの集団がゲフェンダンジョンB3Fに到着した。彼らの動きはいずれもきびきびしていて、その目はやる気に満ち溢れていた。
「よっしゃー、皆散り散りになって探すわよ! 見つけたら場所教えなさいねー」
「よっしゃー、皆散り散りになって探すわよ! 見つけたら場所教えなさいねー」
「はーいっす!」
「くれぐれも気をつけて。 無事じゃなかったら承知しないんだからね!」
「総長こそ!」
今日は久々の大物狩りだ。
なんたって相手はドッペルゲンガー。
この先も成長していくだろう我々”LuCe”には申し分ない相手だ。 それに今日は対抗も入ってると聞く。なんとしてでも先にDOPを仕留めたい。
なんたって相手はドッペルゲンガー。
この先も成長していくだろう我々”LuCe”には申し分ない相手だ。 それに今日は対抗も入ってると聞く。なんとしてでも先にDOPを仕留めたい。
―――と
傷を負い、壁にもたれるようにうずくまっている剣士を見つけクルセイダーは駆け寄った。
「わ! お前大丈夫か!? DOPの所為ではぐれたんだな。今ヒールしてやっから……あぇ!?」
自分のかけたヒールが相手に届かないことに、彼女は混乱の声を挙る。反して剣士は意にも介さない風であった。
『……愚か者が。私にヒールを掛けられるのは、心が闇に支配されたエインフェリアだけだ』
剣士がゆっくりとクルセイダーに向かって振り向く。虚ろに支配された瞳に、クルセイダーは何かを悟った。
「うっわ、もしかして早速DOPみっけ!? 対抗さんに先手討たれちゃったかぁ、まぁいいや」
『……構わん、殺せ』
「……?」
彼は、敵であるエインフェリアを眼前にしても抜刀すらしていなかった。どうにでもしろといった態度でその身を投げ捨てている彼を、彼女は不思議そうに眺めている。
『愚かだと笑うが良い。私は……、最早何故自分がこの世界に必要なのか、わからないのだ』
「……」
『貴様もそう思ったことはないか?既に意味のない神々と我らが君主の意地をかけた戦い。死してなお甦るこの体、終わりの見えぬこの先……。我々は安息を求めることすら許されぬ。いつまでこの様なことを繰り返せば良い?その中で……私は一体何のために生まれてきたのだ?』
「お前みたいなモンスターがまさかそんなことを思ってるだなんて、考えもしなかったよ」
『くだらんと一笑に付してくれて結構だ。……だがそれも、もう疲れてしまった』
ふふふ、とクルセイダーは笑った。だが、決して彼を馬鹿にした笑いではない。何かしら、彼との会話を楽しんでいる風があった。
「ついでに鬱病に罹ってるとは、もっと思わなんだ」
『鬱か、そうかもしれないな』
「お前には、護りたいものがないのか?」
『何……?』
何か分からないが、強いものが込められたその語気に彼は振り向いた。
彼女は口元を緩め、穏やかに微笑んでいるようだった。だが、その鷹の様な眼は優しい光を宿しながらも真っ直ぐに彼を見据えている。
彼女は口元を緩め、穏やかに微笑んでいるようだった。だが、その鷹の様な眼は優しい光を宿しながらも真っ直ぐに彼を見据えている。
「私も、何度となく考えたよ。私らは結局、神々の玩具でしかないんだとね。でもそんなのもう関係ない。一度生を与えられた以上、自分の護りたいもののために、私は闘う。ただ、それだけだ。お前は自分を主と慕ってくれるこいつらが好きなんじゃないのか?」
『……!』
DOPが振り向くと、彼の後ろには数匹のモンスター……彼の配下が彼を心配そうに伺っていた。
「主がそんなんだから、こいつらも心配してるんだよ」
一人のマリオネットが、そっとDOPの肩に触れた。やや震えているようだった。クルセイダーには分からなかったが、きっと彼女は泣いていただろう。デビルチはちょっと遠慮がちにDOPの周りをうろうろしている。いつも彼がひきつれているナイトメア達がその頬を彼にこすりつける。
『お前ら……』
「ほらな、元気出せって。お前は何度生まれ変わっても記憶を失うことはないんだろうが、お前を慕ってるこいつらはそうはいかないんだ。一期一会っていうやつでな、大事にしてやんなよ」
そう言うとクルセイダーは剣を鞘に収め、去っていった。
『……待て!』
彼に呼び止められ、彼女はちらっと後ろを振り返る。
『貴様……、お前の名は……!』
彼に問われると、彼女は口の端を持ち上げてにっと笑った。
「ティア。ティア=ルークス。今後も活躍していく”LuCe”のしがないマスターだ」
―――また逢おう。
彼は彼女の後姿が闇に紛れるまで、ずっとそれを見送っていた。その後ろ姿は彼が今までに見たこともない程雄々しく、そして勇ましく、ある種の感慨さえ与えられるようだった。
あの日から、彼は気付いたのだ。
『貴様は……いや、過去のお前は、私に己が生の理由を与えた者だ。無意味だと思っていた生に、モンスターの私がこんなことをいうのも可笑しな話だが……光を与えてくれた。私が護るべきものを気付かせてくれた、そういう者だった』
「過去のティア……さんが……」
そこでDOPは苦しそうに眼をつむった。嫌な記憶が甦ってきたのだろうか。
『あれほどの強きものが倒れるとは、夢にも思わなかったな……』