〜Memories〜 14

「おい、聞いたか。あのギルド復活したらしいぞ」

 「攻城戦を2ヶ月も休んでなまってるかと思いきやぁ、そうでもねぇ。これであいつらにも一泡吹かせられるな。弱小ギルドの俺たちでも溜飲の下がる思いがするぜ!」

フェイヨンの洞窟の壁にもたれている一人のアコライトの姿がある。
その横を剣士とアーチャーのパーティが通っていく。彼女が何気なく支援をかけると、二人は彼女にお礼を行って奥のほうへと消えていった。

フェイと別れてから一週間が経とうとしていた。
結局何も手につかず、自分ひとりでもレベル上げをしようと洞窟にきているのだが、ゾンビやコウモリを何万匹倒してもこの鬱々とした気持ちは晴れなかった。
そもそも、何のために自身のレベル上げを望んでいたのだろう。沢山の人を救いたかった。だが、何よりフェイを援けたかった……だから、自分は―――。
終わったことを思っても仕方ない、と彼女はため息をついた。
と、後ろから襲ってきたコウモリを撲叩する。彼女は支援アコライトよりも、いつぞやの殴りプリーストのほうが性に合ってるのかもしれない。が、コウモリを叩いたときに彼女は気がついたのだった。

 「あれ……もう壊れかかってる。そんなに乱暴に扱ったっけ……?」

チェインも何万匹ものゾンビの撲滅には耐えられなかったらしい。
気が進まないが、彼女は再びプロンテラへと武器を直しに出かけた。 









 「まいどー!」

その日はなぜかすぐにフェイヨンに帰る気がせず、いつもと違う道を通って散歩することにした。
裏路地とも思われる路を通っていたら、思わず目の前が開けた。広場になっているのだ。その広場には人がひしめいており、何をしているかは分からないがともかく賑やかだった。

 「おっ、そこのアコさーーーーーーーん!」

最初、自分が呼ばれてるなんて思わなかったティアだが、肩をトントン、と叩かれてひゃっと振り返った。

 「アコさんアコさん、失礼っすけどレベル幾つっす?」

剣士が笑いながら尋ねてきた。何だかとても人懐っこそうな逆毛の少年である。彼の後ろにはアーチャー、マジシャン、シーフ、プリーストが控えて興味津々にこちらを見ている。何だかあまり気持ちの良いものではない。

 「……ですけど」

 「よっしゃキタコレ! 俺らとパーティ組みませんか!」

 「え、私なんかで良いんですか……?」

突然の誘いに戸惑うティアを見かねてか、マジシャンが助け舟を出した。

 「もしかして臨時初心者さん?みたことない顔だしね」

 「臨時……ですか?」

初めて聞いた言葉にティアはきょとんとしている。マジシャンは穏やかに笑って続けた。

 「うん。知らないもの同士、その場限り……まぁ臨時でパーティを組んでダンジョンにいったりすることを”臨時”って言うんだ。ここはそういう人が集まって募集したりするから、”臨時広場”って呼ばれているよ」

 「そうそう、俺らみたいな一人もンが寄り添う寂しい場所さ」

 「一緒にしないでよ! あたしは身内が忙しいからここに来てるの!」

シーフが自嘲気味に笑うと、アーチャーがぴしゃりと叱った。結構個性のあるメンツ揃いである。

 「臨時初心者さんなら丁度良い、そこにベテランのプリさんがいるから見てるといいさ。来て損はないと思うよ。おいで!」

差し出された剣士の手を握り、言われるがままについていったティアだがこれが思ったより経験になったりするものだ。
行き先はゲフェンダンジョンの地下二階。ティアにとっては初めての場所だ。だがプリーストの支援あってのお蔭か、狩りは順調に進んでお開きになった。

 「私、プリさんのような支援者を目指したいです……!」

 「期待してるわ。またどこかで逢いましょうね」

それからティアは臨時に入り浸りするようになった。
レベル上げや、自己の支援を磨けるといった場が彼女にとっては魅力的だったが、それ以上に臨時とはいえ仲間が出来たことで寂しさを紛らわせるのが、一番の効力だったのかも知れない。


そして何度目かの臨時のとき―――



 「あっ、この前の剣士さん。またお世話になりますね」

 「おー、アコさんおひさしぶり。今は俺もクルセイダーっすけどね」

彼はあの臨時からしばらくして剣士の上位ジョブのもう一つ、クルセイダーに転職したらしい。青を基調とした衣装に緋色の髪はよく映える。

 「おおっ、あんときのアコさんじゃん! 俺憶えてる!?」

傍らのアサシンはあのときのシーフらしい。

 「シーフさんですよね、お二人とも転職おめでとうございます」

 「ありありっす。まぁこいつとは腐れ縁なんで今日もタッグで前衛組んでますぜ」

何だかむさくるしい前衛である。

 「今日のメンツなら、ゲフェダン3Fにいけるねぇ」

リーダーのハンターがパーティメンバーを見回して言う。

 「ほんじゃ、それでいきましょっか。今日は支援がアコさん二人だから、前衛引っ張りすぎんなよー」

 「うーい」

各々いつもどおりに笑いあったりしながら和気あいあいと準備を進めていたが、ゲフェンタワーに入る前に剣士、もといクルセイダーがティアに話しかけてきた。

 「アコさん3Fは初めてっす?」

 「はい」

 「3Fは3Fで魔剣とかドラキュラ様と違った類のボスが出るんだ。ドッペルゲンガーっていうんだけど……。”DOP”って聞こえたらすぐ逃げて。あと、大量の馬……ナイトメアが見えたら飛ぶ準備を。テレポートあるっすよね、準備しといてください。」

 「分かりました」

 「奴は今までのボスと比べ物にならないくらい強いんだけれども……討伐隊がきてくれるから、うちらとは遭わないと思う。まぁ念のためにっす」
 
ちょっと不安そうなティアの肩をぽんぽん、と叩いてクルセイダーはタワーの中に入っていった。
 








3Fについてからしばらくのこと。それまで順調に敵を片付けていた一行が、何やら違和感を覚え始めた。

 「なんか今日沸きがおかしくねぇ?」

 「異様に敵がいないな。DOPの周りに集まっているのか……」

異様に敵が少ない時は要注意のサインである。モンハウに突っ込んでいってBOSSがその中心にいました、なんて事故もどこのダンジョンにしろ、少なからずあったりする。
それに何というか、空気がじっとりしているような錯覚を覚えるのだ。北の洞窟ともまた違う、気を抜くとぶるぶると身震いしたくなるような雰囲気が漂っている。


 「何か空気も重いしねぇ、それに……」

 「ねぇ、あれ……何?」

ウィザードの言葉を遮って、もう一人のアコライトが彼方を指差している。彼の足は竦み、リーダーであるハンターの腕をぎゅっと掴んでいた。
 
一行の進む行く手に、何かが揺らめいている。蜃気楼?まさかこんな地下のダンジョンの中で。その周りには数頭のナイトメアが群れていた。そのうちの一匹が、どうやらこちらに気付いたようだ。
ハンターの連れている鷹がけたたましく啼いた。

 「逃げろォォォォォ―――――!」

クルセイダーが皆の前に立ち、蜃気楼に向かって突進した。
蜃気楼みたいなもやは、よく見れば人の形をしている。

 「そんな……まさか!」

 − ドッペルゲンガー! −

 「早く逃げろ、俺が惹きつけておくから!」

 「クルセさん!」

 「アコさん、はやく逃げて!」

クルセイダーに駆け寄ろうとしたティアをアサシンが止めた。それでもティアは仲間を見捨てられずにうろたえている。

 「でも!」

 「大丈夫、あいつはあんなことでへばりやしないさ! いくぜっ!」

そういうアサシンの額にも汗がにじんでいる。彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。誰もが不安なのだ。躊躇っている暇はない。
涙目になりつつ、ティアはテレポートをした。




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