白亜 1


何が、凄腕のハンターだ。
何が希代の星だ、この国随一のハンターだ。
護りたいものも、己の体の一部も失くして、何が英雄だ。そんなもの、糞くらえだ!




峠を越え、意識がようやっと回復した彼が故郷に向かうと、その村は既に地図からなくなっていた。
家の面影すら見あたらない。白い雪の上に、瓦礫やら何やらが散乱していて、廃墟を通り越して更地になっていた。
親族を、探しているのだろうか。
恐らく生き残った村人数人が途方もなげにうろうろしていた。時折思い出したように瓦礫の下を覗いてみるも、その動作はもはや無気力で魂が抜けたようであった。
彼らがこちらに気付いた。だが、駆け寄ってくるものも誰もなくただ一様に痛ましい目でこちらを見てくるのみだった。
彼も村人の視線を避けるようにして顔を俯けた。
護れなかった、何もかも。

 「だ、旦那さん、旦那さんニャ〜〜〜!!!」

そのとき奥の方から小さな毛玉が弾丸の如く飛んできて彼に飛びついた。ぶらり、と重たそうに空穂の袖が揺れた。

 「もう死んじゃったとばっかり思ってたのニャ、もう会えないと思ってたのニャ〜〜〜!!!」

 「タマ……」

 「お前さんの帰りを、ずっと待ってたんじゃよ」

いつの間にやら彼の周りには数人の村人が来ていた。この感動的な再会に釣られてきたのかもしれない。

 「下の村のギルドに避難しようっても利かなくてねぇ。この子くらいじゃないかい、残ってたのは」

 「いや、うちの頑固もののジイさんも残ってたんだ。ハンターさんは絶対にあいつに勝って帰ってくるって。それで今一生懸命探し回ってるってのに、どこにも見あたらねえ」

 「すみません……」

そのとき初めて彼は村人に向かって言葉を発した。
見ているとこちらまでもが暗鬱になりそうな顔色だった。

 「……仕方がないんです。ハンターさん方ですら勝てないとなると、人間はもう逃げ回るしかないですわね」

彼は村のハンターとして、あるモンスターの討伐に向かっていた。
氷河の麓に存在し、珍しい鉱石などの発掘を生業にしていたこの村に、突如ギルドから警告が届いた。
ここより上の氷河より突然モンスターが出現したというのだ。それはアカムトルムと対を成すといわれた伝説の存在、ウカムルバスだった。
彼はすぐに装備を整えて、共にアカムトルムを倒した仲間と共に旅立った。
村人の盛大な声援と笑顔と共に旅立った。同じように帰ってくる、はずだった。
自分の了見が甘かったのだろうか。アカムトルムでさえ討伐出来たのだから、ウカムルバスも同じように立ち回ればきっと大丈夫と思った、それが全てだったのだろうか。

格が違うとはまさにあのことだ。仲間は次々と倒れ、最後に残ったのは自分だった。
恐怖と混乱と憤怒でおののく脚を叱咤し、奴に一太刀を浴びせようとした彼に氷の刃が襲いかかった。
ガードも間に合わず、彼はその大剣と左腕をどこかに吹き飛ばされてしまった。体は幸運なことにウカムの死角になるような場所に着地し、彼はそれからギルドの迎えがくるまで意識を失っていた。腕は幸いにして、もがれたすぐ後にその恐ろしく冷たい液体で覆われた所為で出血もそれほどなく、凍傷を除けば大きな怪我もなかったので、意識が回復してまもなくこうして彼は帰ってくることが出来たのだった。

村人は一部を除き全員が避難しているようだった。
その一部は面影すら見あたらない。自分を信用して最後まで残ってた村人に対して情けない気持ちでいっぱいになり、彼は下唇を噛んだ。
そんな彼の様子に気がついたのか、

 「ハンターさんはなにも悪くねぇってばよ。逃げなかったうちのジジイが悪い。現に、俺っちの家族は無事だしよ」

 「これからまた、村を再建しなきゃですね。……ウカムがどっかに行ってくれたら、ですけど」

今度は彼らが避難した先の村の方にウカムルバスが向かっているらしい。一部の村人はギルドが止めるのも聞かずこうしてまた故郷に戻ってきているが、それ以外の人は更に南へと逃げている途中だろう。
これから、我々はどうすれば良いのか。
村を見渡す人々の目にも、言い知れぬ不安が籠もっていた。
彼もまた呆然とした面もちで、村を見渡した。そんなハンターをオトモのタマが心配そうにずっと見ていた。

 

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