Lost_Town

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悪魔猫。 7

おやっさんが黄昏の光の中に彼女らを見つけたのは、それから間もなくだった。万が一に備え、彼一人で来たらしい。へっぽこハンターが同行を許されていないところをみると、彼女の実力が分かってしまうようで辛い。
おやっさんはすぐにギルドに処理の手配を頼み、ハンターも自宅へ戻って休むように勧められた。




明るい月の出る夜だった。
その日は思わず誰もが足を止めてしまうような満月で、美しい金の光が彼女の部屋にも差し込んできている。彼女は着替えたは良いものの、ずっとベッドに腰掛けて動かない。
やがて誰かがノックもせずにキィ、とドアを開けて入ってきた。……アーノルドとブレイクだった。後ろには村長、それから棺を抱えてきたおやっさんにネコートさんも続いている。ハンターは反射的に彼らに頭を下げた。
一人暮らしの彼女の家はその来客だけで窮屈になってしまい、アイルー一同はハンターのベッドに上った。ブレイクが村長とおやっさんに椅子をすすめている。いつもならセナがやっていたその行動に、ハンターはぽろり、と涙を零した。
彼は今、色とりどりの花が敷き詰められた白い寝床に寝かされている。今までギルドの方で清拭などの処理をやってくれていたのだろう。彼の体は、生前の様に綺麗になっていた。
……あちこちに認められる、縫い後を除けば。

一同が落ち付いたところでアーノルドが説明を始めた。

古龍観測所やギルドの意見を求めたところ、あのティガレックスは最近の獲物の減少に加え、クシャルダオラが雪山にきたことで完全に縄張りを失ったらしい。大抵の飛竜は古龍を避けるように生息している。ティガレックスもまたクシャルダオラによって雪山を追い出され、飢えた彼が目をつけたのが人里だろうと言うことだった。彼の死骸を持っていったギルドによると、それはもう飢えてガリガリになった状態だったという。ひょっとしたらティガレックスの中でも弱い個体だったのではないかと推測が飛んでいるが、それでも人間にとって脅威であることは間違いない。

そして話はティガレックスを倒したセナに及んだ。
アーノルドはハンターが居る前で、正直にセナのことを話した。彼がゼノであり、人間にとって所謂悪魔アイルーであること。ドドブランゴや、今回のティガレックスも恐らく彼が片付けたのであろうと言うこと……。その話が進むにつれて、ハンターの瞳からぽつぽつと涙が落ちていった。

 「私は……」

瞬間、彼女に視線が集まる。
報われないセナのその安らかな寝顔が目に入った時、ハンターは声をあげて泣き崩れた。

 自分は、英雄なんかじゃない!

 ドドブランゴも、ティガレックスを倒したのもこの子で、本当は、本当はこの村を護ったのは、この子なのだと……!

誰も、彼女を責めることはしなかった。ベッドから床に崩れ落ちた彼女をアーノルドやブレイク、そしておやっさんが抱き起こして落ち着かせる。彼女はずっとセナに謝り続けた。彼女が話をまともに聞けるようになったのは、深夜近くになってからだった。

 「セナ君はこの村を護った英雄だが、君もまた英雄であることに変わりはないさ」

おやっさんがそう言うと、彼女は真っ赤に泣きはらした目で彼に詰め寄った。

 「どうしてですか!?だって私は何もしていないのに、あなたを上回るハンターだなんて過大評価されているんですよ!?私は違うんです、自分一人じゃこの村も護れない……ハンター失格も同然じゃないですか……!」

そう言って彼女は俯き、唇を噛みしめる。セナを護ってやれなかった後悔、己の力量不足を嘆く姿がそのまま表れていた。

 「セナ君が単身ティガレックスに挑んだのは、何故だと思う?」

おやっさんが穏やかに彼女に語りかける。彼女はふと顔を挙げてその視線を受け止めた。その眼からはまだ涙が溢れていた。

 「それは、君がいたからだ。"ゼノ"というのを私はよく知らないが、セナ君が単身敵に向かっていった理由はそれだけじゃない。きっと、君がいるこの村を護りたかったんだと思う。聞けば、今までの待遇は良くなかったみたいだが、この村に来てからはしあわせだったようだよ。私も何度か彼の姿を見ているが、良い笑顔をしていたよ。そんな彼を育てた君なしでは、彼のことは語れない。分かるね?」

でも、でもと食い下がる彼女に尚もおやっさんは続ける。

 「だから、君にはその英雄の遺志をついでこの村を護り続けて貰いたい。君は、きっと私を超えるハンターになると信じている」

ハンターはくっと身を引き、反射的に村長の顔を見やった。
今までじっと成り行きを見守っていたこの賢婆は、そこでしっかりとハンターに止めを刺したのだった。

 「やってくれるだろうね、我らが村のハンター殿」

それを聞いた瞬間、彼女はまた涙に顔を歪めた。彼女の漏らす嗚咽はもう言葉にならなかったが、それでも村長に、おやっさんに、ネコートさんに、そして自分を支えているオトモ達に応えるために必死に縦に首を振り続けた。
村長はその返事を聞くと立ち去り、おやっさんも彼女を慰めてからそれに従った。最後にネコートさんがセナに何事かを語りかけ、そして彼の側に何かを置いていった。彼女が出て行ったあとブレイクがそっと覗きこむと、それは滅多に花をつけることのない雪山草の、小さいながらも愛らしい真っ白な花だった。

 


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