悪魔猫。 4

近頃どうも山の天気が安定しない。
何かあれば麓の方まで猛吹雪に見舞われ、村人は僅かに陽が覗く頃合いを見計らって除雪という除雪に追われている。最近は山に入るのも容易でなくなり、村の生計の一つである雪山草も取りに行けなくなっている。
更に酷いのは交通の便も悪くなっているらしく、ここ数日行商人を見ていない。ポッケ村自体は自給自足で何とかやっていけるものの、ここはこれよりも山奥の村にとって重要な交通拠点の一つであり、ここにも行商人が来れないということは、山奥の村ではそろそろ生活に支障が出始めているだろう。現に、ハンターにとっても他人事ではなかった。ハンターにとっての必需品が届かなくなっていたのだ。道具屋が備蓄品を出してくれたり、調合に調合を重ねて凌いではいるものの、それも底を尽きそうだった。
ポッケ農場ではアイルー達が一生懸命雪かきをしている。こんな雪で作物が育つはずもなく、薬草の調達をどうしようかと彼女が悩んでいると、コンコン、と誰かがドアを叩いているのが聞こえてきた。






 「氷耐性の上る料理か、防御力の上る料理が良いかな」

ハンターが食卓に座ると、アーノルドはまな板を取り出してくる。セナは急いで薪を竈にくべたが、それももう残り少ない。この間割ったばかりなのに、またやらなきゃな、とハンターは苦笑する。

 「今日は何を狩りに行くんや?」

 「自信はないんだけどね……。多分、クシャルダオラ」

先程村長からあった報告。それは、この悪天候の原因がモンスターであるらしいことだった。
これより山奥の村の住人が、その姿を目撃したこと。白銀に光るそれは恐らく古龍クシャルダオラではないかと、これが現れるときに天候が急変したという古文書と照らし合わせてもまず間違いないと思われる。
ハンター殿には雪山の様子を見てきてもらい、あわよくばクシャルダオラを討伐、といかないまでも追い払って来て欲しい。とのことだった。
しかももう一つ奥の村では老練なハンターが雪山に出かけたまま戻らず、最早頼み込める人は彼女くらいしかいないということだった。手練れのハンターですら敵わない相手に、自分など手も足も出ないのではないだろうか。そんな不安がハンターの顔にありありと出ている。

 「そうやな、それじゃ肉に米、エネルギッシュな料理でいこか」

セナがそれを聞くとぱあぁっと顔を煌めかせて炊飯の準備を始める。このおつむの弱いメラルーにも戦闘以外に意外なところに得意技があり、彼が炊いたり焼いたりした穀物は絶品なのだった。……成功すればだが。隣ではアーノルドが鼻歌を歌いながら肉を焼いている。今日はサイコロミートを仕入れてきたようだ。鼻歌を聴きながら米を炊いていたセナも成功したらしい。
豪奢とは言えないが美味しいご飯に、ハンターの顔から笑みがこぼれる。オトモのアメショー、ブレイクに肉の端っこをあげると、熱がりながらも嬉しそうに食べていた。

 ――あぁ、そうだな。

ふと、ハンターは顔を上げる。

 ――私はこいつらを護ってやんなきゃいけないんだし、またここに戻ってこなくちゃ。

一仕事終わったアーノルドは顔色の戻ったハンターを見て、目を細めてまたたび煙管を吹かしていた。セナはまたそのまたたびに酔ったらしく、ハンターの膝の上でごろごろと喉を鳴らしていた。



 



ハンターがオトモのブレイクと雪山に出かけたのは、吹雪がおさまったお昼前。昼過ぎに再び強風を伴う降雪があったが、おやつ時を過ぎてからは天候の状態は丁度良い。久々に太陽が顔を覗かせているくらいだ。アーノルドやセナは暖をとったり、掃除をしたりといつもの様に過ごしていた。
と、床を掃いていたセナが急に手を止めて、辺りの匂いを嗅ぐような仕草を始めた。

 「どうした?何か焦げているんか?」

アーノルドが問いかけても彼は何も答えず、そのまま台所から姿を消した。

 「おい!?」

アーノルドは後を追ったが既に彼は家を出て、どこかへと行ってしまっていた。普段のどんくさい彼からは考えられない俊敏さだ。

 「チィッ」

急に嫌な予感が湧きあがってきた。
元来アイルー達の嗅覚はそんなに良くない。現に、先程アーノルドは特に何も感じなかったのだ。
セナは、何かを嗅ぎ取ったのだ。
いや、"ゼノ"たる彼が嗅ぎ取ったものは一つしか考えられない。だから彼は一目散に駆けて行ったのだろう。
主であるハンターは苦戦しているのだろうか、帰ってくる気配が一向にない。
自分ではどうにも対処出来ない事態が起こったのを悟り、アーノルドもまた駆けだした。

 

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