わがまま王女と溶岩竜 1


「そのクエストは受けない方が良いぞ」

酒瓶を片手に、顔も真っ赤にした壮年ハンターが忠告する。
今まさにそのクエストを受けようと手続きをしていた若者は、後ろを振り向いた。

 「その依頼主が誰だかわかるだろう。あんた、それでも行くってのかい?」

依頼主はこの国の国王の娘、一番末っ子の第三王女だった。

 「そいつのクエストに成功したが最後、次から次へと無理難題を押し付けられて大変なことになるぞ。それも、とびっきりの奴をな。王女と言う建前、命令には従わねばならないが命は惜しい。この前も、この村から逃げてったハンターがいてだな……」

 「あぁ、それで誰も受けたがらないのだね」

 「あんた、みたところ新入りらしいが、腕はたつのかい?」

男はぐいと別な酒瓶を差し出した。若者も黙って受け取って、

 「丁度別な村から来たところだ。あちらで受けられるものは大方こなしてきたから、こっちに何か面白いものはないかとやってきたのだが……。誰も達成していないクエストがあると思ったら、そういうことだったとはね。みたところ特別難しいって訳じゃあなさそうだったしね」

若者はそう言って酒瓶を煽った。
彼が背負っている大剣には無数の傷があり、彼がくぐってきた場数を忍ばせている。
それに男も気付いたようで、

 「お前さんはひょっとしてココット村のガイアかい?」

若者はにやりと笑った。

 「まぁ、そんなところだ」

 「ココット村のガイアと言えば一匹狼で知られた名うてのハンターじゃないかい。おまえさん、よしときな。他に物珍しいクエストならいくらでもあっただろう」

ガイアはははは、と高らかに破顔すると

 「俺は面白いクエストを見つけるとすぐに飛びつく良くない癖があってね。無理難題か、面白そうじゃあないか。ちょいと王女様の遊びに付き合ってきてやるよ」

ガイアは酒のお礼を言うと立ち上がり、クエストの手続きを進めるため受付嬢のところまで歩を進めた。
その後ろ姿を心配そうにしょぼしょぼ眺めていた男に向かって、きりりとした雰囲気のメラルーが一礼する。この隻眼のオトモアイルーも主人と同じように名の知られたお供だった。

まもなく準備が整ったのか、ガイアは男に向かって手を振るとクエストへと旅立っていった。


なるほど、確かに彼は腕の立つハンターだったらしい。
そのクエストをあっという間に終わらせて帰ってくると、次から次へとこの村に依頼されてくるクエストを総嘗めしていった。
その間にも第三王女からの依頼がちらほらと舞い込んできていた。
それを見るこの村のハンター達は顔を青くし、みんなそろって舌を巻いていたものだが、ガイアはそれも一笑に付して次から次へと一人でこなしていった。

そんなこんなでギルドに入り浸るものだから、いつの間にか酒場でくだをまいていたハンターとガイアは飲み仲間になっていた。

 「昨日は金獅子に挑んできたのか。相変わらず元気なようだな」

酒飲みハンターはいつもの様に彼を労い、酒瓶を差し出した。
見たところこの男は酒場に入り浸りでクエストには出ていないようだが、金は大丈夫なのだろうか。まぁ酒場の皆、いや受付嬢や竜人族からすら一目置かれる存在の様だから、そうなのだろう。
彼は酒のつまみのサシミウオの塩焼きを隻眼のオトモに渡してやる。オトモも嬉しそうに頭を下げる。

 「金獅子相手は骨が折れたが、強い相手にこそわくわくするね。これがハンター稼業だの醍醐味だと思ってやってるよ」

 「そういや、もうここのクエも殆ど終わらせちまってるもんなぁ……」

 「そうだな。実はここに来るのも、これが最後なんだ」

酒飲みハンターは思わずえっと素っ頓狂な声を挙げてしまった。

 「そうか、また別な村へでも回るのかい?」

 「いや、王宮に呼ばれちまってね」

その瞬間、周りのハンターたちがなにいいいいいいい!?と声を挙げ、彼に駆け寄ってきた。
聞けば、第三王女付きのハンターとして認められたらしい。

 「今までの功績がついに認められたな!しかしあんたともあろう人が一か所のお抱えになっちまうだなんて、珍しいな」

 「なぁに、国王陛下からじゃじゃ馬を頼まれただけよ」

その後は彼の成功と無事を祝って、盛大な送別会が催された。
酒飲みハンターは若手たちの盛り上がりを笑ってみていたが、その裏で嫌な予感を感じていた。

最近樹海地方で見たこともない黒い影が出ていると聞いたばかりだ。彼の様な若造でも、否が応でも危険な任務への最前線へ置かれることになるだろう。何事もなければ良いのだが。
酒飲みハンターはもう一度仲間に囲まれ笑っている彼を見ると、酒瓶の底に残っていた最後の一口を飲み干した。


それっきり、ガイアのことは風の便りにも聞かなくなってしまった。
それから間もなくして、新種モンスターの発見の報告が相次いだ。例の黒い影はナルガクルガというらしい。この身さえ無事ならば、自分も現場に行くことが出来るのだが。
いや、今は優秀な次世代のハンターたちへ任せよう。彼の思案通り、この村のハンターたちはすくすくと成長した。武器も良いものが揃う今なら、過去の第三王女の無理難題にでも応えられるだろう。
きっと彼も今頃王宮より直々の特派員になって、ギルドに遣わされているだろうとほくそ笑んだ酒飲みハンターの夢想は、あっという間に崩れ去ってしまった。



数日後に、見たこともないオトモアイルーがこの村に流れ込んできた。
見たところみすぼらしい、というよりはボロボロのようで、足取りさえしっかりしないようである。
村のアイルー達がそのオトモに駆け寄ると、オトモはその場に崩れ、泣き伏せてしまった。
騒ぎを聞きつけてなんだとなんだと酒飲みハンターも現場に駆け付けた。と、彼はその場で眼の玉をひんむいてしまった。
なんということだろう。今目の前でボロボロの姿で泣き崩れているのは、かつてあんなにも凛々しい姿をしていた隻眼のメラルーではないか。
村のアイルー達の介護により復活した彼が語るところによると、ガイアは依然として第三王女付きのハンターとして活躍していたらしい。わがままで自分勝手な王女の課す無理難題もぽんぽんとこなしていたそうだ。

ところが、金獅子すら歯牙を掛けることが出来なかった彼が、ついに倒れたというのだ。
相手はナルガクルガ達と同じように最近新たに確認されたモンスター、溶岩の中にすむナマズ、溶岩竜ヴォルガノスだった。
敵も強かったが、場所が最悪だったらしい。彼はヴォルガノスに激突され、そのはずみで煮えたぎる溶岩の中へ、見えなくなってしまったというのだ。火山での仕事は常にそういった危険性が伴うのだが、今回のは溶岩の中に棲むというモンスターが相手なだけにその危険性が増していたのだ。
事実だとしたら余りの惨事に、村のハンターたちは涙を流した。
流石に酒飲みハンターも暗い顔を落した。

回復した隻眼オトモはネコバアに引き取られ、お通夜モードだった酒場も次第に活気を取り戻してきた頃、件の彼を屠ったヴォルガノスの依頼がこの村にも回ってきた。依頼主はやはり第三王女。
しかし、その内容を見て逆上しない者はいなかった。彼を殺しておいて、まだこの依頼を、こんな理由の為に誰かに頼もうと言うのか!?
酒場のハンター達の猛抗議に遭って、流石にギルド側もたじろいだが何しろ依頼者が依頼者だ。
このことは取り下げはしないが、決して目立たないところに隠しておく。ということでハンター達と話し合いがついた。

 

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