Lost_Town

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悪魔猫。 6

セナ自体は"ゼノ"だ。飛竜なんて目じゃないだろう。
だが、それならば何故彼は帰ってこない?あまりにも時間が経ち過ぎではないか――。

 不安で胸が張り裂けそうになる。
 息が上がって今にも心臓が口から飛び出てきそうだ。
 でも、足を休めるわけにはいかない。
 この村の平和と――愛する者の為に。







村の外れの草原に、それは横たわっていた。
鮮やかな橙色の地に空色の縞模様。夕日に照らされてきらきらと光るその鱗の美しさに反して凶暴にして暴君、ティガレックスだった。
頭は引き裂かれ、爪は折られ、尻尾は半分になくなっていて、千切れた破片はその傍らに転がっていた。
やはり、期待したとおりだ。流石同種からも悪魔と恐れられるだけはある。しかし、肝心のセナがいない。人間にゼノだと露呈するのを恐れてどこかへと行ってしまったのだろうか。

 そんなの、私がどうにかするから――。

彼女はずっとセナの名前を呼び続けた。

まだ、まだやり残したことが沢山あるじゃない……!
料理の腕もまだまだだし、オトモには連れて行けないかもしれないけど、私は、まだ可愛がり足りない。アーノルドや、ブレイクだって帰りを待ってるのにどこかへ行っちゃうなんて、私は認めない……! 帰ったら褒めてやろうって、これからも一杯褒めてやろうって、決めてたのに――!

ふとティガレックスの側の岩陰に、黒い尻尾が見えた。

 セナ……!

ハンターは喜色を浮かべ、急いで駆け寄った。
だが彼女の足取りはそれを見た瞬間、ぱたりと鎮まってしまった。

 「セ……ナ……?」

彼はそこに横たわっていた。その姿は間違いなく普通のメラルーだった。
……血でべっとりと全身が濡れていることを除けば。
彼女はそのメラルーを抱き起こす。村の別なメラルーが巻き込まれたのではないかと、不謹慎ながらもわずかな希望を抱いて――。
しかし、その彼女の希望もすぐにガラスの如く砕かれる。そのメラルーにははっきりと、特徴的な印が認められた。……彼は隻眼だった。

 「セナ……!」

彼女はもう一度そのメラルーに呼びかける。ふとそのメラルーは小さく痙攣し、やがて薄目を開けた。そして彼女の顔を認めた瞬間、嬉しそうに口を歪めると微かに聞き取れる声で、


――”旦那さん”


と、呼びかけた。
ゴロゴロ、と喉の奥から嬉しそうな音が聞こえてくる。彼は血の泡を吹くにも関わらず、満足そうに目を閉じてずっと喉を鳴らしていた。
そのゴロゴロの音も段々と小さくなり、やがて彼はかくり、とその首をハンターの胸の中へと落とした。彼の口元には笑みが浮かび、眼からは涙が滴っていた。
しあわせそうな彼の最期を看取ったハンターはぼろぼろと涙を零し、彼を抱えたまま嗚咽を漏らし続けていた。


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